中曽根陽子(なかそね・ようこ)さん
教育ジャーナリスト/マザークエスト代表
鳥海最(とりうみ・まさる)さん
株式会社 YPスイッチ取締役・プログラミング教育 HALLO 事業本部長
――IT技術の進化がめざましく、チャットGPTなどの対話型AI(人工知能)がビジネスシーンや日常生活にまで広がる今、なぜ、プログラミングを学ぶことが必要なのでしょうか?
鳥海:ビジネスに活用していくとなると、ただの便利なブラックボックスとして扱わず、それらがなぜ、どういう仕組みで動いているのかは理解していく必要があると考えています。そのためにプログラミングやコンピュータ・サイエンスを学ぶことは非常に有益で重要ですし、すごく単純な話でも、AIやチャットGPTが今後も発展していく中で「チャットGPTなどのAIに的確に指示を出せる」というスキルも必要になります。
中曽根:そうですね。日本の労働人口の約半分は人工知能(AI)やロボットなどで置き換えが可能になるという調査結果(※)が出ている中、今後はAIやチャットGPTを活用していく事が普通になっていくと予想できます。そのためには論理的な思考の組み立てが重要ですね。小学校でのプログラミング学習は、コンピューターに意図した処理を行うために必要な、論理的思考力の育成が主な目的です。
鳥海:先の見えないこれからの時代を生き抜くために論理的思考力や課題解決力が求められ、こうした背景からプログラミングは習い事として注目されていますが、まさにHALLOはプログラミングの中でもそのニーズに適した習い事であるといえます。
※オックスフォード大学と野村総合研究所の共同調査結果(2015年より)
――学校でも論理的思考力が求められていますが、具体的になにをすれば思考力がつくのでしょうか。
中曽根:思考力に限りませんが、何かを身につけるためには、根幹はやはり「何事も挑戦し、失敗を重ねていくことで成長する」ということだと思います。思考力も考え抜いて挑戦することで成長できるものですよね。すぐに考えることをあきらめてしまったら、思考力は成長しません。
鳥海:その通りです。HALLOではスモールステップで子どもたちが成功体験をつめるよう、簡単なレベルから難しいレベルまで段階を踏めるようになっています。日本語のブロックを組んで指示を作り、プログラミングの基礎を学び、その後はPythonブロックで指示を組み立て、最終的にはPythonをテキストコーディングできるところまで到達できるのですよ。ゲームの様なミッションがなんと600以上もあるので飽きることもありません。
中曽根:小さな「やった!できた!」を子ども一人ひとりその子に合ったレベルで体感できるのはいいですね。何年ぐらいでお子さんたちはテキストコーディングまで到達できるのですか?
鳥海:始める年齢や個人差はありますが小学校1年生でも1~2年で到達できるよう目指しています。実際に、HALLOでテキストコーディングを始めてから、その後は自主的にアプリ制作を行っている子もいます。日本語のブロックは未経験の子どもから始められますが、大人でも意外と難しいのですよ。中曽根さんもぜひ体験してみてください。
中曽根:さっそく体験させてもらいます。(指で方向を示しながらタブレットを操作し)あらっ、間違えちゃった。何でだろう?
鳥海:失敗しても大丈夫です。どうして間違えたのかを考えて、もう一度トライしてみましょう。私たちはレッスン中に「急がなくてもいいから、自分で色々試して失敗してみるのはとても大事だよ」と生徒に話しています。
HALLOはどこで間違えてしまったかを1つずつ検証しながら何度も確認ができるのです。
中曽根:なるほど、試行錯誤をするのですね。
よし、もう一度挑戦!やった!今度はうまくいきました!大人でもこのクリア画面が出てくるのは嬉しいですね。
プログラミングには難しいイメージがありましたが、HALLOはとても扱いやすく、ビジュアルもきれいで楽しい。遊ぶような感覚だけどロボットへの指示を読んで的確な指示をしないといけないので、読解力や思考力も身につけられますね。
鳥海:クリア後も、一番効率よくブロックを組むにはどうしたらいいか、もっと短時間でクリアするにはどうしたらいいか、追及している生徒もいます。これも「課題を解決するためにどうしたらよいかを考える」、まさしく思考力ですよね。
――生徒の保護者の中には、「HALLO」での学習を通じて、子どもの文章の読解力が上がったとの声もあるそうですね。
鳥海:教材の中に文章問題はありませんが、子どもがプログラミングで何度も試行錯誤する経験から、まず、「パッと見てもよくわからないけど、問題を解こう」という姿勢ができるのではないでしょうか。最初はわからなかったけど、考えて、やってみて、解けた。そういう成功体験があるからこそ、まずは読んでみようとすると考えています。
中曽根:読み解く力とは意外ですが、それは、プログラミングで指示を的確に理解することが大事だということに関係するのでしょうか?
鳥海:そうですね。先ほどお伝えした通りHALLOでは自分で組み立てた指示がどこまで合っているか、どこで間違えているか都度確認することができます。だから、子どもたちもパニックにならずに冷静にどこでつまずいてしまったか、組んでいたプログラムはどういう意味だったのかと考えられるのですよ。
正確には文章ではないですが、どんどん長くなっていくプログラミングブロックを一つ一つしっかり読む癖がつくことで、読解力、そしてそれを組み上げるなかで考える力が鍛えられるのではないでしょうか。
中曽根:テストの場合は考え抜いて出した答えが「×」か「○」でしか返ってこないので、子どもたちはどこでつまずいたのかわからず、モチベーションも下がってしまいますよね。HALLOで論理的思考力が身につけば、学校の勉強にも生かせそうですね。
――プログラミングと聞くと一人で黙々と取り組むものと思っていましたが、「HALLO」の学習は子ども同士で学びあえる場があるそうですね?
鳥海:はい、レッスンは他学年複数の生徒が同じ部屋で進めているので、教えあう様子も見受けられます。また、月1度、クリエイトモードで自由に作った作品をプレゼンテーションする時間を設けています。思考力を「表現力」に落とし込む時間です。作品や発表をこの日までに完成させるという締め切りを持つことにもなりますが、クリエイトモードはこだわればどこまででも作れるので、本来区切りはありません。ただ作りたいものに「締め切り」を設けることで子どもの目標になり、これは生徒のモチベーションにもつながる非常に重要な要素だと考えています。
中曽根:区切りがあることで、良い緊張感も生まれますね。それに自分が一生懸命作った作品ですし、自分の言葉で説明したくなりますね。発表内容も生徒自身で決めるのでしょうか
鳥海:発表の大まかな流れは決めており、生徒が作品名、頑張った点、難しい部分の解決方法などを発表してもらっています。質疑応答の時間で生徒同士が「この部分はどうやって作ったの?」「繰り返しの命令を使ったよ」などとプログラミングの技術について伝え合うこともあります。
中曽根:発表の経験を重ねると、ロジカルに、分かりやすく相手に説明する言語能力が高まりますね。また、お友だちや先生の第三者からのリアクションはとてもうれしいですよね。
鳥海:そうですね。目標に向けて頑張って作った作品を発表し、それをまわりから承認・称賛されることは子どもたちにとって大きな成功体験になります。作品は作成・発表して終わりではなく、作品をタブレット上で「公開」をすることで、通っている教室以外のHALLOの全生徒にも作品をみてもらえるのです。そして、生徒同士で作品を見て「いいね」「参考になった」をもらう事ができるんですよ。一生懸命作った作品を発表し、第三者から承認・「いいね」をもらえることで、一層やる気のサイクルも回ります。
――レッスンでは、先生はどのように関わってくれるのでしょうか?
鳥海:生徒は学年やコースに分かれず、自分のペースでそれぞれ学習を進めます。
先生は、一方的に教えるのではなく、生徒のやる気を引き出す「コーチング」を大切にしています。先ほど体験していただいたように、成功したらほめ、わからない場合は答えをそのまま教えるのではなく、ヒントを出して導くようサポートしています。また、月に1度面談を行い、目標の設定から進捗確認を先生と行います。レッスン中に困っていること、挑戦したいことをヒアリングしたり、時には小学校での出来事、最近楽しかった出来事も聞いたりしますね。
中曽根:家庭・学校以外で年齢の離れた人とのコミュニケーションも大事ですね。生徒からすると先生は頼りになるお兄さん、お姉さんという感じでしょうか。私自身、コーチングを学び、子どもの能力を引き出すためには、接し方がとても大事だと知りました。保護者の方へはどのようなコミュニケーションをとっていますか?
鳥海:大切なお子様をお預かりしますので、スクールの様子をしっかりと保護者の方にお伝えしてサポートする体制を大切にしています。生徒の学習の進捗共有や、レッスンレポート、月1回の電話連絡、年3回の保護者面談を行っています。
――最後に、子どもたちが「HALLO」の学びで得たスキルは、将来、どう役立つのか教えてください。
鳥海:「先行きが見えない世の中」と言われる時代ですから、AIの発展をはじめ、目まぐるしい速さで新しいものが誕生し変化していきます。その中で必要なことは、「自分で課題を見つけ、解決策を論理的に思考し、そして失敗しても最後までやり抜く」この力は絶対に必要になってくると思います。
しかし、小さい子どもたちにやみくもに「諦めないで頑張ろう!」と掛け声をしているだけではなかなか難しいところもあります。HALLOでは先ほど話した通り、カリキュラム自体がゲーム形式で楽しく進めることができ、「先生からの適切な褒め」「仲間からの承認」によって、「自然に頑張る力」が身につくように設計されているのです。
「難しいことも一生懸命チャレンジすれば、クリアできる!」というHALLOの成功体験を思い出しながら、高い壁に直面した際にも果敢に挑戦していく力を今の時点で身につけた子どもたちは将来大きな可能性を持てるのではないかと思っています。
中曽根:論理的思考力や課題解決力が生きる力として一層重要になる中、「HALLO」ではこうした力が自然と身につき、お互い学び合うことで相乗効果を得られることがメリットですね。何より、楽しみながら「失敗を恐れず挑戦する力」が身につくことは今後生きる上で重要なスキルになりますね。
AIの進化は凄まじく、子どもたちにとって、デジダルスキルは当然のように必要不可欠ですが、それ以前に大切なのは、自分で考え行動する力です。でもそれは、何かをすればすぐに身につくものではなく、子どもが自分で試行錯誤しながら「できた!」という経験を積むことが必要です。
しかしそれには、そもそも興味がなければ始まりません。つまり好奇心がスタートなのです。そして、周囲の大人は、その子どもの好奇心の芽を摘まずに伸ばす働きかけをすることが大切です。
プログラミングというと、何か特殊な習いごとのように思われがちですが、今回「HALLO」を体験してみて、トライ&エラーのスモーステップでデジタルスキルを身につけながら、論理的思考力と挑戦する心を育む仕組みが、たくみに用意されている教材だと感じました。
文・小島泰代 写真・篠塚ようこ